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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)359号 判決

主文

理由

上告代理人古井戸義雄、同村瀬尚男の上告理由第一について。

本件において、被上告人は、訴外蟹江隆久、同蟹江省三から本件土地建物を買い受けたが、その際登記簿上の所有名義を上告人としたこと、及び、右買受と同時に本件土地建物を使用貸借契約により上告人に貸したが、その契約を解除したこと、を主張し、上告人に対して本件土地建物の登記名義及び本件建物の占有の回復を求めた。これに対し、上告人は、抗弁として、(一)本件土地建物は、上告人が右訴外人らから買い受けたものであり、かりに被上告人が二重にこれを買い受けたとしても、被上告人は所有権移転登記を経由していないので、その買受をもつて上告人に対抗することができない旨、及び、(二)かりに被上告人がその買受によつて本件土地建物の所有権を取得したとしても、被上告人は、税務当局に対し買受資金の出所を秘し、脱税をしようとの不法な目的のため、本件土地建物の所有名義を上告人とし、本件建物を上告人に占有させたものであるから、被上告人が上告人に対し本件土地建物の所有名義及び占有の回復を求めることは、民法七〇八条本文により許されない旨主張した。しかし、原審は、被上告人に本件土地建物(ただし、未登記の原判決別紙目録(四)記載の建物を除く。)の登記名義及び本件建物の占有を回復することを許した。

ところで、原審の適法に確定した事実関係によれば、右訴外人らと上告人及び被上告人との間に二重に本件土地建物の売買契約が締結された事実はなく、買主の名義は上告人としたが、実際には被上告人を買主とする一個の売買契約が締結されただけであるというのであるから、二重売買がされたことを前提とする右(一)の抗弁は、主張自体失当である。また、同じく原審確定の事実関係によれば、被上告人は、その裏金をもつて本件土地建物を買い受けるため、税務当局から買受資金の出所を追及されることをおそれ、被上告人の経営する訴外三久船舶株式会社の従業員である上告人の承諾を得て、上告人の名義で所有権移転登記を経由し(前記原判決別紙目録(四)記載の建物を除く。)、かつ、建物は訴外会社の従業員の住居として使用させる目的で使用貸借契約によりこれを上告人に貸したというのであり、右事実関係のもとにおいては、被上告人が上告人の名義で所有権移転登記を経由したこと、及び、上告人に建物を引き渡したことが、公序良俗に反するとはいえず、不法原因給付にあたらないことが明らかである。

結局、前記(一)(二)の抗弁は、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、主張自体失当としてこれを排斥すべきものであり、原判決は、措辞明確を欠くが、右と同旨の見解に立つて、本件土地建物(前記原判決別紙目録(四)記載の建物を除く。)の登記名義及び本件建物の占有の回復を求める被上告人の請求を認容したものと解されるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二、第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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